(現代版 バレンタインの話)




ギル*アカリ



「あのね、えーっとね。」


「それは、なんだ?」

「ガトー・・・ショコラ?」

「なんで自分で作っておいて、疑問系なのだ?」


「あはは、ごめん失敗しちゃった。」

「見れば分かる。」


「でもね、ほら!胃の中に入ってしまえば成分は同じワケだし。・・・ね?」

「・・・分かった。バレンタインと銘打って、実は僕を殺す気だったんだな。」


「えーっと、決してそういうわけじゃなくてですね、、、!」

「・・・・・・・。」

「ギルー。なんでそんな遠い目をしてるのよ。」


「これを食べる自分の姿を想像してた。」

「なんでそんなひどいこというのよー!」

「これを食えと言うよりもひどいことがこの世にあるものか!」


「そ、そこまで言わなくても・・・・。そりゃあ、ちょっと分量間違えたり?

混ぜるの失敗しちゃったし、オーブンの温度と時間間違えちゃったけど。」

「それのどこがちょっとなんだ。」


「で、でも!愛はこもってるんだし!ね?」

「はあー。」


「(溜息、、!)もー、こんなんだったらチハヤに教えてもらっとけばよかった。」



「・・・今なんて言った?」

「教えてもらえばよかったなーって。」


「誰に?」

「チハヤに?・・・あ。」




「ちょ、ギル!痛いって」

「帰るぞ。」

「わかったから!・・ごめん、気に障るようなこと言って!」


「別に気に障ってなんかない。」

「・・・はい。」


「それと、僕はお前からのケーキを食べないとは言ってないぞ。」

「でも、溜息ついたじゃない。」


「・・・それはご愛嬌だ。」

「・・・・・・・ぷっ。」


「今、笑ったか?」

「あはは、笑ってないよ!!」

「どう見ても笑ってるだろ!」





(だって、ねえ?やっぱりあたしはギルが大好きだ。)






。。。。 。。。。。




ルーク*アカリ






「賭けてもいいわ。」


アカリさんの声が聞こえてきました。

帰り支度をしていた私は、彼女の通る声を聞いて少しだけ後ろを振り向きました。

アカリさんとキャシーさんが机を挟んで向かい合わせになって、話をしていました。


「何を?」

アカリさんの、きっぱりとした声にキャシーさんが怪訝そうに言いました。



「私からのチョコ。ルークに義理だと思われずに渡せる確立、ほぼ0%」

「なんでまたそんな弱気なのよ。」

「幼馴染の感よ。」

「はあ・・・。」


教室は人が少なくて、アカリさんとキャシーさんの話声はよく聞こえていました。

私は、これ以上お話を聞くのは失礼だと思ったので、早く教室から出ようとしました。

廊下に出てから少しすると、突然影がかかったので私は誰だろうと思って、顔をあげました。


「あ・・・!」

私が目を丸くしたのとほぼ同時に、アカリさんの声が教室に響きました。



「だって、去年だって私からのチョコをさ、まるで家族からもらうよーに受け取ったのよ!きー、いまいましい!」

「アカリ、あんたルークのこと好きなんでしょ。憎んでどーすんのよ、憎んで。」




「だってー。・・・あたしばっかり好きで嫌になる。」


アカリさんの声は少しだけ小さくなりました。

悪いと思ったのですが、そっと廊下から覗くと、机にうつ伏せて手に顎を乗せているアカリさんの姿は、本当に恋する乙女でした。


でも、アカリさんの声はよく通っていて、なんとなくですが、なんて言っているのか私の耳にも届きました。

きっと、隣の人にも聞こえているのだろうと思って、私は胸がとくとくと早く鳴りはじめました。




「だってはもういいから。一度言ってみればいいじゃない。」

「・・・・なんて?」


「さっき言ってたことよ。」


「そんなの言ったら噴出されるに決まってるわ!」

「いくらルークでもそこまで鈍感じゃないでしょー。」

「いーや!キャシーは、ルークがどれだけ鈍感か分かってないわ!」



この前だってねー。と口を尖らせながら語るアカリさんの話に、キャシーさんがケタケタと笑っています。


私はおろおろしながら、ルークさんの方を見たんですけど、ルークさんはしゃがみこんでしまっていて、顔がよく見えませんでした。

でも、ちらりと髪の毛から覗く耳の頭が、真っ赤に染まっていて。







(鈍感なのは、どっちもどっちだと思うのは私だけでしょうか・・・?)





。。。。。 。。。。。。



チハヤ*アカリ







「はー。幸せになりたい。」


「・・・そういうの痛いからやめてくれる?」


「・・・そーだよね。チハヤならそー言うよねー。もー。」


「あんまり聞きたくないんだけど。何が・・・。」

「ちょ、もー聞いてよー!。」

「・・・ごめん、前言撤回。なにも聞きたくない。」


「えー、なんでさ。」

「なんだか、嫌な予感がする。」



「そんなこと言わないで、聞いてよ!あたしさあー先輩から好きって言われてたじゃん?

それをさ、元カノだかなんだか知らないけど、『あたしの彼氏盗らないでくれる?』とか言われてさ。

誰も取ってないじゃん、てかあたし振ったし、、!だいだいそんなことあたしに言う前に、彼氏に言えよ!って話じゃない?

てゆーか、先輩もちゃんと彼女ときれいさっぱりにしてから、あたしに告るべきじゃない、、!?」


「結局振ったんだ、あの先輩。さんざん僕に自慢してきたからオッケーするのかと思ってた。」

「だって、チハヤはたくさんモテてるから。あたしだってそういう話して、天狗になってみたかったのー。」


「別に僕、天狗になってたわけじゃないし。」


「でも、チョコ○○個ももらってたじゃない。」

「なんでそんなことアカリが知ってんのさ。しかも数まで!」


「マイ情報。」



「・・・はー、もう。マイのやつ・・・」

「ほらやっぱりもらったんだー!」


「もらったってゆうか・・・。」


「あたしの分なんてどーせ、その子たちと一緒くたにチハヤの胃袋の中でしょ?もー、なんかやだあ。」


「やだ?」

「うん。」



「さっきの先輩の話だけどさあ。今度から、こう言えばいいよ。」

「なんて?」


「『あたしには、今すっごくかっこいい彼氏がいるんで、誰とも付き合いませんよ。』ってさ。」


「・・・、誰それ?」(てか、さっきの本当にチハヤ?)



「分かんない?」

「え、なんであたしの彼氏をチハヤが知ってて、あたしが知らないの?ちょっとおかしくない?」



「だってアカリ、チョコくれたじゃん。」


「・・・・・・。でも他の子からももらったんでしょ?」


「なんで、マイが僕がもらったチョコの数を知ってたと思う。」

「・・・・・!」


「解った?」

「もしかして、マイにあげたの?」

「正解。」

「じゃあ。」



「でも、まあ。正確じゃなかったけどね。」

「・・・なんで?」


「僕がもらった数より、一個少ないから。」

「それって・・・」


「さ、グダグダ言ってないで帰ろっか。アカリの家って、けっこう遠いんでしょ?」

「・・・!うん、、!」





(やっばい。あたし、今すっごく幸せだ!)




チハヤがもらったチョコの数は、ご想像にお任せします。笑





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